2002.01.01

チョムスキーの「9・11」を読んで

ノーム・チョムスキーの「9・11 アメリカに報復する資格はない!」を読みました。

ノーム・チョムスキーは、アメリカのというより世界的に有名な言語学の大家です。
彼は、ユダヤ人の両親のもとに産まれた。進歩的な教育を受け、ペンシルバニア大学に進学した。大学時代
から政治に関心があり、初期の「シオニスト運動」に共鳴し、活動した。 社会主義、キブツ思想、生活協同組
合などに強く関心を持っていたが、シオニスト青年諸団体には加わらなかった。
その後もヴェトナム戦争反対でも活動するが、政党、団体に加わったことはない。
彼自身「自分は、<加わる人>ではない」と言っているということです。

彼は、9・11について
「実行者とされるのは、特殊な種類に分類される人間である。だが、米国の政策をめぐって、中東地域に溜まっ
ている怨念と憤激の貯水池から支援を引き出していることは論じるまでもない。」と述べています。

そして、この事態が『グローバリズムに対するテロ』とか『文明間の衝突』という言葉で表されることに、否定を
しています。
特に『文明間の衝突』という言い方には全く違うと。 アメリカはイスラムのサウジアラビアと深く結びついているし
トルコとも軍事面での援助を含めてつながりが強い。その中身が具体的には化学兵器などを駆使したクルド人
に対する「民族浄化」であることを語っています。けっして、イスラムとの戦いなどではないと。

さらに『グローバリズムに対するテロ』とか『文明間の衝突』という表現で具体的な事態を見ないことを警戒し、
より具体的にアメリカが世界に何をしてきたかを見ることを提起しています。

そのアメリカが行ってきたテロの実例として、ニカラグアに対して行ったことを詳細に述べています。
トルコ、スーダン、イラクに対してアメリカがどのような危害を加えつづけているかを具体的に述べています。

9・11の攻撃に対してアメリカの取るべき態度についても
「ニカラグアが行ったように国際法廷に訴えるべきで、報復を行うことは間違いである」と述べています。

国際連合憲章にも述べられているように、いかなる国も報復は認められてはいません。
自衛の戦争というのも今回の事態では適応されないのです。このことはまた別にHTで述べます。

テロの定義について
アメリカのドクトリン、軍のマニュアル、アメリカの法典に照らして
「テロリズムは政治、宗教その他の目的を達成するため一般市民を狙って高圧的な手段を用いることである。」
「しばしば主張されるのとは違い、それは『弱者の武器』などではない。」と述べています。

この定義に従えば、アメリカが今回 「9・11を起したテロリストの側につくか、アメリカにつくか、それ以外の
道はない」アメリカ側につかなければ、テロリストとして攻撃の対象になるというのは、正にその手法そのものが
テロであると言えるでしょう。

チョムスキーは、抽象論を避け、一貫して具体的な行動を通してアメリカを見ようとしています。
そこにあるのは、9・11によって攻撃を受けたかわいそうなアメリカではなく、自分以外の国に対して、あらゆる
手段を使って人々を踏みつけてきたアメリカが見えます。

私は、スーダンの薬品工場の爆撃が、スーダンの人々、子どもにどれほどの打撃を与えたか正確に知りません
でした。ニカラグアが、踏みにじられた後、どれほど国際法に叶った民主主義的な手段で国際社会に訴えていた
かを知りませんでした。

しかし、こういう一つ一つの事実をしっかりと知ることが、ことを判断する上で大切なことなのだと考えます。
知ろうとすること、その努力を止めると権力の思いのままに流されてしまうと思います。

チョムスキーは、厳しくアメリカを批判しつつ、にもかかわらずアメリカの人々には絶望していないのです。
こういう事実を知ったら、考えるだろう、考える方向が変わるだろうと信頼しているように思えます。
この楽観主義こそが本当の意味での革命家に求められる資質かもしれませんね。

これからもチョムスキーには注目していたいと思います。

9・11 アメリカに報復する資格はない!: ノーム・チョムスキー著 山崎 淳訳  文藝春秋 

チョムスキーの詳しいプロフィールは、ここ
http://www.inamori-f.or.jp/KyotoPrizes/contents_j/laureates/profile/co_04infnoam.html


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