メリーメリーゴーラウンド
4567HIT 村苑恵美様へ





“月の満ち欠け。太陽は登り沈んでゆく。その繰り返しのように。”









「来るんだったら連絡しろって言ってるのに」
 予告無しに現れたアイジに、潤が呆れ顔を向ける。いいじゃん、と屈託なく笑って、アイジは身体を玄関に滑り込ませた。
「おっ邪魔しまーす。ねー猫は?いる?」
「いるよそりゃ」
「あーいた、にゃーだ。にゃー」
「あー煩い」
 猫に向かってアプローチをしながら部屋へ入ると、アイジは勝手にソファに座り込んで、持っていたビニール袋を机に置いた。
「ちゃんと差し入れ持ってきたんだよー」
「へえ、気が利くじゃん」
「まあねーA型だし」
「おい嫌味かそりゃ」
 笑う潤の態度には拒絶は見えない。それを都合良く解釈することにして、アイジはソファに腰を下ろして煙草を取り出した。






 アイジがいきなり潤のところを訪れるのも、逆に自分の家に誘うのも珍しいことではなかった。
 むしろ連絡をしている方が少ないくらいで、気紛れのように、思いつきのように現れては強引に入り込む。
 それは密やかに意図的にそうされていて――恐らく潤は気付いていないけれど――、そして、次、を決めることもなかった。じゃあまたね、ただそう言って。








「……アイジ?」
 ふとできた沈黙の中、ソファの隣に移動して首に手を回したアイジに、潤の目が丸くなる。
「何だよせっかちだな」
 ふ、とだけ笑って口づけると、苦笑じみた表情で見上げられた。
「いいじゃん別に」
「何?したいの?」
「うん」
 ちょっとは躊躇しろよ、そう言いながらも引き寄せる彼は結局、受け入れることは知っていた。視界が反転して、のしかかってくる潤の背中に手を回しながら、アイジはそっと口の端を歪める。
 甘やかされてるという自覚もある――――でも、これは付け入れてることになるんだろうか?








* * * * * * * * * * * * * * * * *








 その肩に手を伸ばしたのが何故だったのかは、もう覚えていないしおそらくどうでもいいことなのだろう。
「アイジ?」
 怪訝そうな彼に薄い微笑みで答えて、そのまま肩を引き寄せて自ら床に沈み込んだ。見下ろす形になった潤はまだ戸惑いを残したまま、だけど視線は逸らすことなくアイジに絡ませている。
「…やんない?」
 薄い笑みを張り付かせたまま、発せられた言葉に潤は驚いた顔をして、しばらく無言でアイジを見下ろした。――その間、アイジも表情を変えることもなく。
「…ね」
 再度の誘いに、潤の身体が動いた。屈み込むようにアイジを覗き込む。
「アイジは、それでいいの?」
「いいよ、潤くんさえよければ」
 間近に寄せられた潤の表情は読めなかったけれど、笑みは崩さずに答える。誘ったのは自分だ、――そう思い知らせるように。
「俺さえ、ね…」
 どこか苦笑じみて発せられた言葉とともに、潤の手が肩から胸へと滑らされた。一瞬、息を呑んだアイジはその肩を抱き寄せる。
「ねえ、…キスしてよ」
 戸惑うことなく下りてきた口づけと、その時の彼の瞳がひどく優しかったことは、覚えている。








 約束を、したことはない。
 次いつ会うの。明日は会えるの。そんな何気ない言葉も交わすことなく、じゃあまたね、と、曖昧に。
 きっとそれが守られないことも、約束自体を拒否されることも、恐れて。
 シャワーを浴びて戻った時には、潤は既に寝息をたてていた。その横に滑り込み、そっと髪に指を絡ませてみる。意識的に空けられたベッドの一人分の隙間が、何だかひどく切なく感じられた。







 例えばこんなとき、明日が来なければいい、と思う。






* * * * * * * * * * * * * * * * *







「だから連絡くらい寄越せって言ってるだろーが」
 懲りずに玄関口に現れたアイジに、潤はいつもの通り呆れた顔をしてみせる。
「俺には俺のペースがあんの。だいたい、いなかったらどうすんのお前」
「いやいなかったら諦めつくじゃん。あ、にゃー」
 いい加減にアイジの顔を覚えたのか、猫も愛想良くすり寄ってくる。嬉しそうに抱き上げて、釈然としない風に奥へ進む潤の後を追った。断ったことなんかないくせに、――そんな言葉を呑み込みながら。
 だけど。
「アイジ?」
 少しぼんやりとしてしまったようだ。怪訝そうな潤に、何でもないよ、と首を振る。
 だけどもう少し、このまま甘やかされてるだけでいいのかもしれない。………受け止めては、くれるわけだし。
「…アイジ」
 気付くと、いつの間に近付いたのだろう、至近距離に潤の顔があった。真直ぐな視線は強くて、やっぱりどこか人形じみているな、と的外れなことを一瞬思う。その顔が、つ、と更に近付いた。



 口づけられていたことを、その間自覚ができなかった。結構な長さだったような気がするのに、目を閉じることもしないまま、離れた彼が複雑な笑みを浮かべて初めて、ゆっくりと唇に手をあてた。純粋に、驚いていた。
 動くのは自分であって、彼ではなかったのに。



「なあ、アイジ」
 潤の笑みは苦笑に近かった。そういえば、最近そんな表情ばかりさせている気がする。
 その腕が伸ばされて頬を包む。それだけのことなのに泣きそうなほどの感情がこみ上げて、視線を逸らしたかったけれどそれもできずに、ただされるまま見つめ返した。潤は、苦笑のまま。
「解ってないみたいだけどさ、もっと普通に、ウチ来ていいんだよ?」
「え」
 思いもかけない言葉に反応ができないアイジに、潤は笑みを優しく崩した。
「いつもお前、様子がおかしいんだよ。言わないようにしてたけど、今日は特に、ひどいみたいだからさ」
「おかしい、って」
「…ん?」
 アイジの頬を包んだまま、潤は少し考えるように首を傾げる。そのまままた、触れるだけの口づけが掠めた。
「……思いつめた感じ、かな」


 そんなこと。瞬間的に出掛かった言葉はだけど喉元で消えて、顔を歪めて泣かないように耐えた。
 そのまま潤の肩口に顔を埋めて抱き締めながら、抱き返してくれるその身体に、思いきり身を委ねた。







“満ちる潮。満ちる月。繰り返した果て、君へと募るいとしさを抱いて。”



end 2003.10.25


4567HIT、村苑恵美様に捧げます。
ほんっとーに遅くなってすいません!(まだお待たせしてる方も!!)
そしてかなり微妙ですいません。でもこれは潤アイです!潤アイなんですう!
初めて書きました潤アイ。でも結局アイ潤とスタンス変わんないじゃねーかよーみたいな…そしてリク内容にも添えてないような…(ちょっと現実離れした、てことだったんですがめっちゃ現実的やんみたいな…)あああ本当すいません。少しでも、楽しんでいただけましたら幸いですけれど…(弱気)。でも、 リクエストどうもありがとうございました。宜しければこれからもどうぞよろしくお願いいたします。