手術後の治療

術後 1 日目

苦しみの 一夜が明けましたが朝食は小さい パックの ミルクを飲んだだけで、食欲はありませんでした。その後吐き気も治まり症状が回復したので、個室に移され酸素吸入も必要なくなりました。

午前の医師の回診では膀胱の洗浄をしましたが、その後膀胱に入れた カテーテル ( 導尿管 )の牽引状態が解かれ、右足を固定していた シーネ ( 固定具 )もようやく外されました。

これで身体の向きを自由に変えることができるようになりましたが、しかし カテーテルは依然膀胱に入れたままなので、尿は膀胱から ビニール・チューブを通り ベッドの傍にある蓄尿器に自然に流れ出る状態になりました。

昨日からの連続した点滴が終わり、今日からは朝晩 2 度の点滴になりましたが、1 回につき 500 C C の水分補給と、感染症予防の抗生物質の点滴で、時間にして 1 時間半ほど掛かりました。食事は 「 おかゆ 」 でしたが手術後はなるべく多く水分を摂って排尿を増やすことが、傷口の回復や感染症の予防に必要なのだそうです。

病室の パラマウント電動 ベッドの上で、上体を 90 度まで起こすことが許されました。

昨日は観察室で私が寝ながら嘔吐する姿を見ていた女房が、心配して昼過ぎに早々と面会に来ましたが、嘔吐の原因について女房には傷口を洗う水が、身体に合わなかったからだと説明しておきました。

術後 2 日目

医師の回診時には カテーテルを通して 2 度目の膀胱の洗浄をおこないましたが、傷口が シミました。今日から排便時のみ自力歩行が許可されました。排便の際には膀胱に力が加わらないように腹圧を掛けずにするようにいわれましたが、力まずに排便するのは至難の技です。午後には看護師さんが熱い タオルで身体を拭く「 清拭 」をしてくれました。

食事も今日から常食になりましたが、病院の常食を摂るのも何十年振りでした。私は昭和の 1 桁生まれのため戦中、戦後には飢えの経験があり、粗食には慣れていたつもりでも、ここの病院食はかなり質素なものでした。しかし見舞客の多い週末になると、なぜか食事の質が良くなるという不思議な傾向があります。

1 日の食費が 780 円という 医療保険制度の中で贅沢を言うつもりはありませんが、毎回 「 ふりかけ 」 をご飯に掛けて食べました。売店には パックの佃煮、瓶詰、缶詰などの副食類が豊富に置かれている理由が納得できます。

膀胱の容量

大人の場合膀胱の容量は 200 C C 〜400 C C ですが膨張性に富み、尿閉が起きた場合には 1,000〜1,500 C C も尿を溜めることができます。膀胱が尿で満たされると脳の神経を刺激して尿意を催しますが、手術直後は手術による膀胱刺激症状の為に、満タン近くまで溜まらなくても尿意を催す為に頻尿となります。

前述の傷口の洗浄、感染症予防のために、点滴と合計して 1 日 2,000 C C になるように水分を摂取しましたが、そのために排尿回数もかなり増えました。しかし回復するにつれて膀胱刺激症状も無くなり 1 回の排尿量も 200 C C 程度に増え、夜間は 400 C C まで膀胱に溜められるようになりました。

尿失禁の問題

入院に際して看護師から
  1. 女性がお産の後などに使用する、T 字帯 ( 越中 フンドシと似たような物 )を 3 枚
  2. ワイド ・ ポリマーという名前の、大人用 「 紙おむつ 」 1 袋
を売店で購入しておくように言われました。手術直後から必要になるのだそうです。

前立腺肥大手術の後遺症としては、「 尿失禁 」 が生じる場合があります。その原因としては

  1. 簡単に言えば男性の尿道括約筋は 2 段構えのため、通常は女性に比べて尿失禁が少ないわけです。その 一つが膀胱の出口にある ( 女性には無い )前立腺による括約筋的な役目で、二つ目は女性と同じ尿道括約筋です。

    前立腺手術により前立腺の持つ括約筋的機能が大部分失われるために、尿道括約筋だけに依存することになります。前述の逆行性射精も、前立腺による括約筋的機能の障害により起きるものです。

  2. 前立腺下部にある尿道括約筋が、前立腺手術の際に少し傷が付いた場合。

があります。

私の場合術後 4 日目に尿道留置 カテーテルを抜きましたが、丸 4 日間 カテーテルが挿入されていたため尿道の括約筋がよく締まらず、ベッドから床に降りる際など膀胱に圧力が掛かると失禁しました ( 腹圧性失禁 )。これはえらいことになったと思いましたが、当日に看護師から尿失禁を防ぐために尿道括約筋を強くする運動について指導を受けました。

尿失禁を防ぐ運動

ベッドに仰向けに寝たまま膝を立てて足を少し開き、肛門の括約筋を 5 秒くらい引き締めたままにして次に緩め、その運動を何度も繰り返します。傷口が良くなったら 10 回程度ずつ間隔を開けて、1 日 100 回程度運動をするのだそうです。肛門の括約筋と尿道の括約筋は連結しているのでこの運動が尿道括約筋の強化をもたらし、失禁防止に役立つといわれています。

私の場合その運動をしたところ傷口から出血したらしく血尿が出たので、直ぐに運動を中止して、傷が完全に治ってから運動をすることに決めました。

リハビリ ・ パンツ

カテーテルを抜いた日の午後面会に来た女房に失禁の話をしたところ、早速病院の売店に行き大人用のおむつ カバーと紙 パットを購入してきました。おむつ カバーは リハビリ ・ パンツ という名前の吸収性のある パンツのことで、10 個が 1 パックでした。説明を読むと 2 回までの使用に耐えられるとありましたが、寝たきりの病人がそのままで排尿しても、 2 回までは吸収して外に漏れない という 「 優れもの 」でした。

最初の頃は失禁に対する用心の為に就寝時だけ リハビリ ・ パンツを履き、それ以外は T 字帯に失禁 パットを当てましたが、リハビリ ・ パンツは本来私にとって必要なものではありませんでした。

肛門の引き締め運動をしなくても失禁の量は次第に少なくなり、手術後 10 日目頃からは失禁 パットには排尿後の 「 シミ 」 が付く程度になりました。尿道括約筋には異常がない証拠です。

回復した排尿の勢い

カテーテルを抜いた直後の排尿は、あたかも青年の頃のような勢いで放出されましたが、その後は拡張していた尿道が縮小するにつれて 40 才頃( ? ) の勢いとなりました。

排尿の際は尿道括約筋を緩めるだけで、手術前のような腹圧をかけなくてもかなりの勢いで排尿でき、しかも途中で尿が途切れることも、終了時にだらだらと垂れることも無くなりました。手術のお陰です。


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