機長が唱える呪文
[ 1: 幸運な事故 ( その一 ) ]平成 17 年 8 月 4 日、カナダの トロント にある ピアソン国際空港に パリ から飛んできた エ−ル ・ フランス の 358 便が雷雨の中で着陸 したところ、滑走路を オーバーラン してなだらかな谷に突っ込み炎上 しま した。しかし幸運にも乗客乗員 309 名は炎が出る以前に機体から脱出 したため、43 名 ( うち 22 名が軽傷 ) が負傷 しただけで済みま した。
その後の調査によれば エアバス 340 型機の機体にある 8 箇所の非常脱出口のうち使われたのは 4 箇所のみ で、出入口扉の内側に装備され、緊急時に扉を開けると自動的に圧縮空気で膨張するはずの脱出用 スライド ( 滑り台 )は、 2 箇所が膨張 しなかった とのことで した。 なぜそうなったのか今後の調査が待たれます。機体が全部損壊 した事故でありながら死者が ゼロで、負傷者が 40 人前後というのは、乗組員による乗客の避難誘導の効果よりも、実は燃料 タンクへの引火爆発が遅れたという 「 幸運な事故 」 であったからで した。
[ 2 : 幸運な事故( その二 ) ]幸運な事故例を探すと他にもありま した。昭和 50 年 ( 1975 年 ) 11 月 12 日に米国の オーバーシーズ ・ ナショナル 航空の DC−10 型機が、ニューヨークの J F K ( ケネディ ) 空港から離陸滑走中に、百羽 ほどの カモメ の大群の中に突っ込み、鳥を吸い込んだ右側 エンジンが爆発 しま した。機長は離陸中止の操作を しま したが、右側 エンジン からの油圧で作動する主車輪の ブレーキ がきかず、機体が オーバーラン し、右 エンジン が脱落 しま した。 しか し乗客乗員 139 名中、死亡者は ゼロ、重症 2 名、軽傷者 30 名で した。写真の機首に近い両側の非常用脱出口 ( 出入口扉 ) から、前述 した脱出用 スライド ( 黄色の滑り台 )が使用されたことに注目。
事故に幸運も不運もあるものか(?)とお考えの方は、平成 17 年 4 月 25 日に起きた J R 福知山線の尼崎脱線事故のことを思い出 して下さい。あの カーブ の所に マンション が建っていなかったならば、仮にあの付近が畑であったならば、107 名の死者と 500 名の負傷者を出すという大惨事の犠牲者は、かなり減少 したはずです。 右側の写真は事故により長い間不通になっていた福知山線の開通後に、下り線から事故現場の マンション を撮ったものですが、脱線事故は前方 カーブ の右側を手前に向かって走る上り線で起きま した。 前述した トロントや、ニューヨークにおける飛行機事故の場合も、オーバー ・ ラン した機体が地面や障害物に衝突 し、洩れた燃料 ( 灯油とほぼ同じ成分 ) が エンジンの熱で発火 しま したが、燃料 タンクに引火し爆発するまでにある程度の時間が掛かったので、機内にいた乗客乗員が無事に脱出できたので した。
[ 3 : 福岡での事故 ]平成 8 年 ( 1996 年 ) 6 月 13 日午後 0 時 8 分頃、九州の福岡発 インドネシア ・ バリ 島経由 ジャカルタ 行きの ガルーダ ・ インドネシア 航空の D C−10 型機 が、福岡空港から離陸中に エンジンが故障 し離陸を中止 しま したが、滑走路内で止まりきれず滑走路から オーバーラン し機体が炎上 しま した。 この事故で乗客乗員 275 名中、乗客 3 名が死亡 し、乗客乗員合計 18 名が重傷を負い、9 1 名が軽傷を負いま した。 事故機が停止 したのは午後 0 時 8 分 10 秒頃で、乗客の飛行機からの緊急脱出は午後 0 時 10 分 0 秒頃に完了 しま した。つまり全員が脱出するのに 1 分 50 秒かかりま したが、 この数字 を覚えておいて下さい。後で出てきますから。
緊急時に乗客乗員の全員が、飛行機に設置されている非常用脱出口 ( 出入口を含む )の内の 半数 を使用 して、 9 0 秒以内 に全員の脱出が 可能な数 の脱出口を設けなければならないと決められています。なぜ半数なのか その理由とは、飛行機が滑走路から オーバーラン をすれば多くの場合に機体外部に火災が発生 し、全部の脱出口が使用できるとは限らず、また衝撃などによる ドアの変形の為に非常口の 一部が使用不能になる場合があるからです。
更に前述 した トロント の事故の場合のように、附属の圧縮空気 ボトル で膨らむ スライド ( 滑り台 )が膨張 しなかった場合もあります。写真は翼の上にいる 2 人の男性の間に見える非常用脱出口 ですが、 ボーイング 767 型機や 777 型機にも翼面上に出る非常用脱出口が設備されています。 翼面上に脱出 した乗客は、3.5 メートルの高さから膨張 した スライド ( ゴム製の滑り台 ) により脱出するはずですが、別の事故機の写真では、反対側の翼も含めて 2 箇所の スライド( 滑り台 ) が膨張せずに垂れ下がった状態にありま した。航空機 メーカー が 新型機の 型式証明 を取る場合には 、最大乗客定員と同じ数の搭乗者、乗組員を乗せて夜間に、または窓の ブラインド を下ろ して暗く した機内から 9 0 秒以内に全員が脱出 し、非常口の数が安全上支障なく設置されていることを、 実地試験で証明 しなければなりません 。
ジャンボ ・ ジェット ( ボーイング747−400 ) 機には、国内線の場合最大で 569 人 、国際線では 339 人 の乗客が乗ります。 米国の ボーイング 社が型式証明を取ったということは、569 人 プラス乗組員全員が、写真の赤矢印で示す 12 箇所の非常用脱出口のうち 片側 6 箇所だけを使用 して 、90 秒以内の脱出に成功 したことになります。 日本を含め諸外国の主な航空会社では パイロット は勿論のこと、客室乗務員 ( キャビン ・ アテンダント ) も毎年 1 回緊急訓練の座学や実地訓練を受けることになっていて、緊急時の脱出、避難誘導に備えています。ところで平成 1 8年 3 月 27 日の新聞報道によれば、 エアバス : 世界最大新型機の避難訓練で 33 人負傷とありま した。とありま したが 「 Aー380 形機 」 は年内にまず シンガポール 航空に引き渡され る予定で、これまでの受注数は世界で計 159 機になり米国の ボーイング 社は苦境に追い込まれます。
命あっての ものだね、死んで花実 ( はなみ ) が咲くものかとばかりに、乗客を機内に残 したままで自分達が真っ先に機外へ脱出 し日本人乗客から非難されま したが、これは普段から客室乗務員等に、ろくな緊急脱出、避難誘導訓練も実施せず、しかも客室乗務員たちが乗客の安全を守る 保安要員 としての職業意識に欠けていたのが原因で した。 彼女たちにとって乗客のために我が身を危険にさらすことなど論外であり、真っ先に逃げ出 して航空会社を ク ビ になったら、他社で仕事を探せばよいと思っているのに違いありません。2014 年に修学旅行生など 295 人が死亡 した際の、韓国 セウォル 号沈没事件の船長のように−−−。 安い航空券を販売 し、安い ツアー 料金で客を運ぶ航空会社が アジア にもかなりあり日本に乗り入れていますが、その中には他社で使い古した飛行機を安く購入 してろくな整備もせずに使用 し、整備士や乗組員の訓練も不十分で、さらに経費節減のため、万一に備えて航空会社が座席に掛ける乗客保険も低い金額に しか入らない場合が多いのです。事故の際に航空会社が乗客や遺族に支払う補償金に対 しては国際的には改正 ワルソー ( ワルシャワ ) 条約があり、その第 25 条では責任制限規定と して 最高 2 万米 ドル ( 1 ドル 100 円の為替 レートと仮定すれば、200 万円 )となって います。 しか し最近では上限枠の撤廃を図る航空会社の動きも増え、日本の航空会社では自動車保険と同様に、人身事故の場合には上限枠がなく 無制限の規定 となっていますが、520 名が死亡 した日航機の御巣鷹山 ( おすたかやま ) 事故の際の補償金は ウワサ によると、平均で 7〜8 千万円 だったそうなので、乗るなら日系の航空会社に限ります。日系航空会社に勤務 し、某 アジア系航空会社の機体の飛行間 ( 到着から出発までの )点検を関空で担当 していた整備士の話によれば、こんな古い機体と耐用年数を過ぎた エンジンで、よく日本まで飛んでくるなと驚いていま した。 参考までに ガルーダ航空の エンジン 故障の原因は、エンジン メーカーである G E ( ジェネラル ・ エレクトリック ) 社が高圧 タービン ・ ブレード ( 羽根 ) 部分を 6,000 サイクル ( 離陸使用回数 )で廃棄すること を推奨 していたのに、それを超えて 6,182 サイクル の期限切れの エンジン を使用 した結果で した。
離陸滑走中に速度が V 1( ブイワン、注 :1 参照 ) 以前に エンジン が故障 したら離陸を 中止する 。V 1 以後の速度で エンジン が故障 したら離陸を 続行する 。 V R ( ブイアール、注 : 2 参照 ) の速度で機首上げを開始 し、 V 2 ( ブイツー、注 : 3 参照 ) で離陸後の初期上昇をおこなう。上記が 「 呪文 」 の基本形ですが、必要に応 じて離陸中止操作 ( エンジンの出力 レバーを全閉、フル ・ ブレ−キ を踏む、エンジン の逆噴射を 一杯掛ける ) の確認や、管制塔への緊急事態通報の指示、離陸を継続 した場合 燃料を大量に搭載 した国際線機などでは、そのままでは機体重量が重過ぎて着陸不可能のため、燃料投棄空域へ飛行 し予め計算された時間だけ、タンク内の燃料を空中に放出投棄する等の機長の意図を副操縦士に伝えます。 それと共に 旧 タイプ の飛行機では計器板にある速度計の目盛りにも、3 個の目印をそれぞれ V1、 V R、V2 の示度に合わせるのです。エンジンに フルパワーを入れ離陸を開始し加速が始まると副操縦士は速度計の指度を見ながら、 ブイワン( V 1 )、ローテイション ( Rotation、機首上げ開始 )、ブイ ツー( V 2 )と声で知らせます。 乗客が飛行機の加速を座席の背中に感 じ機外に流れる景色を見ている間、 操縦席の機長は エンジン 故障発生を 今か今かと 待ち受け (?)、その際には離陸を止めるぞ、 止めるぞと思いながら 加速する速度の V 1 通過を待ちます。それ以後は何が起きても、離陸続行に専念 します。
注 : 1、[ V 1] [ 7 : ガルーダ航空、機長の失敗 ]福岡から離陸 した ガルーダ航空の DC−10 型機 は離陸滑走中に 速度 V 1 を過ぎ、機首上げ速度の V R を過ぎたところで右翼の エンジンが故障 しま した。 前述した如く V 1 を過ぎた時点では飛行機の前方には、最早安全に機体を停止できる長さの滑走路が残っていないので、機長はそのまま 離陸を続けるべき で したが、彼の判断 ミ ス から離陸を中止 して しまいま した。 その結果滑走路末端から 620 メートル も オーバーラン を して しまい、機体が障害物に当たり燃料が洩れだ し、それに引火 しま した。福岡空港は北に向かい離陸すると直ぐに玄海灘ですが、事故機のように南に向かい離陸すると前方や旋回する西側には背振山系 ( 標高 1055 メートル ) があり、エンジン故障時には心理的に嫌なものです。 運輸省( 当時 )の事故調査委員会は平成 9 年 ( 1997 年 )11 月 9 日に報告書を公表 し、 事故の原因は機長が V 1 以後に離陸を中断 したことである と結論付けま した。 機長が離陸前の 呪文 で唱えた内容通りに操作 しなかったのが原因で した が、呪文に反する行動をとると バ チ が当たります。
[ 6 : 日航機の エンジン ・ トラブル ]520 名が亡くなった御巣鷹山の日航機墜落事故から 20 周年の、平成 17 年 8 月 12 日夕方のこと、福岡空港発 ハワイ の ホノルル 行きの J A L ウエイズ の D Cー10 型機 が離陸直後に第 1 エンジン ( 左側 )が轟音と共に火を噴き、ジェットエンジン の タービン の羽根 ( ブレード ) の破片を周囲に多数撒き散ら しま したが、故障箇所は多分前述の ガルーダ 航空の場合と同じだと思います。 当該機は福岡空港に引き返 しま したが、乗客乗員 226 人は無事で した。今回の故障は V 2 の安全速度を過ぎて上昇中に起きたので、機長にとっては幸運で した。それに しても製造 してから 25 年も経過 した古い機体を使用するのは、トラブル につながり安全性に問題を生 じます。
機長が緊急事態を宣言 しなかったことに関して、一部の マスコミ は大きな見出しで報 じていま したが、機長が安全に飛行できると判断 し、 福岡空港へ戻る際の進入、着陸に関 して、航空管制上の優先的取り扱いを要求する必要性 を認めなかっただけの話です。
機体の 金属疲労 がもたらす重大事故を含めて危険な目に遭わない為には、 機齢の若い飛行機を使う航空会社 を選ぶと共に、 D C−10 、B−737−100、200、B−747−100、200、300、Airbus A 300、A 310 などの、老齢の飛行機には 乗らないことです。 米国の調査会社 ソロモン ・ スミス ・ バーニー 社が 1999 年 ( 平成 11 年 ) におこなった機齢に関する調査によれば、 米国の主要 10 航空会社の平均では 12.1 年 であり、欧州では 8.8 年 、日本では、日航が 11.4 年 、全日空が 8.4 年 で したが、日航の子会社の 日本 アジア航空では 19.6 年 で、今回 トラブル を起こ した J A L ウエイズでは 17.7 年 で した。一般的に機齢の数字から読み取れるものは、 航空会社の経営状態と経営 トップの安全に対する考え方です 。世界には航空関係者であれば、誰もが認める 安全な航空会社 と、乗らない方が良い / 乗るべきではない事故を多発する 危険な航空会社 がありますが、乗客はそれを知らずに / 知らされないままに、毎日搭乗 しています。 アジア、オーストラリア地域の航空会社の安全性を知るには、 ここをクリック 。これは 1970 年 ( 昭和 45 年 ) 以降の航空機による死亡事故統計です。 ちなみに All Nippon Airways ( 全日空 ) は上から 5 行目、 Janan Air Lines ( 日航 ) は上から 17 行目にあります。データ表の見方は
[ 8−1、ANA ( 全日空 ) と、 JAL ( 日航 ) との安全性の比較 ] 前述 した Air Safe.com の事故統計表 の数字を再掲 しますと、FLE と Events の数字が少ないほど安全であることを示す。A N A の場合は 1971 年 ( 昭和 46 年 ) に岩手県雫石 ( しずくいし ) 上空で航空路を飛行中に、戦闘訓練中の航空自衛隊の ジェット 戦闘機と衝突 し、162 名が死亡 した 「 雫石事故 」 以降、 4 5 年間 死亡事故は無 し。 J A L は 1970 年 ( 昭和 45 年 ) 以降 5 件の死亡事故を起こ していて、最後の死亡事故は 1985 年 ( 昭和 60 年 ) に起き 520 名が死亡 した御巣鷹山事故であり、その後 3 1 年間死亡事故は無 し。
2016 年 5 月 27 日に羽田空港で離陸中の エンジン 故障により離陸を中断 した大韓航空は、幸運にも今回は死者が出なかったものの、1970 年以降 死亡事故が 7 件とは多すぎるので、安全では無い航空会社に分類されるで しょう。 [ 8−2、最後に ] 中華航空以外にも日本に乗り入れている安全ではない航空会社があるので、それらを利用する際には、事故で残された家族から お父さんありがとう 、あるいは親孝行な息子 ( 娘 )だったと 感謝されるように 、海外旅行保険の死亡時 受取金額を、しっかり上積み して契約 しておきま しょう。貴方と ご家族の 幸運を祈ります 。
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