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大腸、内視鏡検査
[1:定年前 サラリーマンの恒例行事]日本では昭和56年(1981年)以来、ガン は脳卒中を抜いて常に日本人の死亡原因の第一位を占めていますが、 平成15年(2003年)の統計によれば、全死亡者数 101万5034人のうち、ガン で死亡した人の数は 30万9465人でした。これは第二位の心疾患による死亡数15万9406人の二倍近くに当たります。
定年前になると多くの サラリーマン は人間 ドック や、会社、地域などの健康診断を受けて、健康状態の確認や病気の有無などを調べてから第二の人生に船出しますが、かつては定年に伴い企業が加盟する組合健保( 組合健康保険 )から、国保( 国民健康保険 )に移管された為に、なにかと有利な組合健保が利用可能な内に病気を発見し、治そうとしたからでした。しかし十四年前から退職者特例制度ができて、退職後一定の期間( たとえば十五年間 )は企業の組合健保に継続して加入できた為に、退職に備えて健康診断を受ける必要性が現在では薄れました。
[2:内視鏡検査を初体験]定年退職するまで航空会社の パイロットをしていたので、航空法で義務付けられた半年毎の厳重な航空身体検査を私は長年受けてきましたが、胃や大腸は検査の対象外でした。その理由は消化器系統の病気により飛行中に、突然操縦不能になる事態 ( インキャパシテイション、Incapacitation ) が起きにくいからでした。
定年が近づいたある年のこと、私も生まれて初めて大腸の内視鏡検査を受けることにしましたが、十五年前のことでした。前夜に下剤を飲んでから翌朝病院に行くと、 トイレ 付きの個室に入れられて 二 リットル の ポリ 容器に入った下剤 ( 大腸洗浄剤 )を一時間で飲み干すようにいわれました。飲みにくい液体を全部飲み終えると一時間後から下痢が始まりましたが、二時間後には薄黄色の水になりました。看護師が排出された水の色を見にきましたが、もう少し色が薄くなってから検査するとのことでした。 その後 二度目の排水検査(?)に合格すると内視鏡検査室に行く前に検査着に着替え、使い捨ての不織布製の パンツ というか ズボン下 状のものを履きましたが、穴が開いた部分を後にするように言われました。腸の動きを止める注射を肩に打たれて ベッドに横になりましたが、やがて内視鏡が肛門から 「 侵入 」 してきました。
大腸の 内視鏡 ( ファイバー・スコープ )検査とは、経路が 九十度近く何度も曲がる大腸の中を通って、盲腸( 虫垂 )まで内視鏡を到達させますが、それまでは医者が内視鏡に直接眼を当てて、大腸の内部を 肉眼で見るものとばかり思っていました。ところがそうではなく、電子内視鏡という カメラ 付きの機器とモニターを使用し、 しかも目的の場所から内視鏡を引き抜く途中の、いわば 帰り道に観察をおこない、モニター画面に映し出された 腸管内部の画像を観察して、ポリープ( Polyp 、異常生成物 )があれば切除することを知りました。
自分の大腸内部を モニター 画像で初めて見ながら検査を受けましたが、内視鏡が大腸の曲がり角を通過したり 管内をこする度に、腹が引きつるような痛み、突っ張るような痛みを感じました。医者によれば昔受けた盲腸の手術による腸の癒着( ゆちゃく、注参照 )があったので、内視鏡がやや入りにくかったとのことでしたが、検査の結果 ポリープ を七個も切除するという予想外の収穫(?)の多さに、痛みに堪える苦労が少しは報われました。後日知らされた細胞検査の結果では、ポリープ はいずれも良性だったとのことで安心しました。
癒着:)
[3:皇太子の ポリープ 切除]報道によれば皇太子さまは平成19年6月6日に東大病院に入院し、十二指腸にできた ポリープ を切除しましたが、ポリープ については同年3月の健康診断の際に発見されたもので、一部の組織を採取して細胞検査をした結果、良性と分かっていたそうです。担当の医師によれば軽い全身麻酔を掛けた上で口から内視鏡を挿入し、胃の出口とつながる 十二指腸にできた人差し指の先ほど( 二センチ の大きさ )の ポリープ を切除したそうですが、出血もなく、一時間十分で手術を終了しました。
ところで大腸などに発生する ポリープ ( Polyp 、粘膜の肥厚による突起 )は、俗に ガン の芽 ともいわれていますが、それを細分すると、
[4:覗き屋の医師]八十六才で死亡した母親の死因は老衰でしたが死ぬ前年から下痢や便秘が続き、「物を食べると腸に悪さをする」と言って食欲が無くなっていたので、あるいは腸の病気( 大腸ガン ? )も患っていたのかも知れません。ところで私の大腸 ポリープ を切除した医者によれば、大腸 ガン は進行が遅いので、次回の検査は念の為に一年後、それ以後は三年おきに検査を受ければ良いとのことでした。一年後の検査では ポリープ は無く、三年後の検査では ポリープ が一個見つかったので、また切除してもらいました。以上は家から遠いところにある病院で検査を受けましたが、その次からは家の近くにある胃腸科を看板にする医院で受けることに決めました。結論をいえばこれは失敗でした。 内視鏡で大腸の中を観察するだけで、ポリープがあっても、うちでは切除はやらないことにしているので、他の医院で取ってもらえといわれました。胃 カメラ の時も見るだけの医者がいましたが、近所の評判によると、親切な医者といわれていました。昔のことわざに、
医者と僧侶は年を取りたるがよし。とありましたが、長年の経験の積み重ねが仕事の質を高めたからでした。しかし日進月歩する医療技術の中で研究心や向上心を失った高齢の医者の中には、時代の変化に取り残され、胃腸科の看板を掲げなから胃や大腸を内視鏡で覗くだけの、いわゆる覗き屋( Peepig Tom )ともいうべき医者がいたのには失望させられました。
[5:痛い医者と、痛くない医者]
前述の如く、私には盲腸の手術をしたことによる腸の癒着があったために、内視鏡による大腸検査を受ける度に、腸が突っ張られ、擦られてかなり痛みを感じました。そこで大腸検査の本を読み、痛くない医者を求めていろいろ調べた結果、次のことが分かりました。
[6:私が受けた、痛くない内視鏡検査]痛くない医者を求めて友人に聞いたり、インターネットで調べた結果、電車で十五分の所にある胃腸科・肛門科・外科・整形外科の看板を掲げた医院に行くことに決めました。ここならば胃腸科の他に外科もするからには、単なる覗き屋ではなかろうと判断したからでした。四年前に大腸の検査を受けて以来久し振りの検査でしたが、前処置とも言われる大腸内部を カラ にする方法はどこでも似たようなものでした。
平成19年5月31日に大腸の内視鏡検査をすることになりましたが、検査前日は消化の悪い食物の摂取を避けて夕食は夜七時迄に済ませ、寝る前に下剤 ( ラキソベロン、10ミリ・リットル、写真の左端の小瓶 )を飲みました。検査当日は朝六時に起きて、まずは下剤( 腸の洗浄液 )作りをしました。医院から渡された 2 リットル 入りの ポリ 容器に薬( テクトロール2袋、ガスコン 1包 )を溶かして 1.8 リットル の溶液を作りましたが、最初の十五分間で 1.0 リットル の溶液を飲み、残りの 0.8 リットル は次の 四十五分間で飲むように指示されていました。 つまり1 時間で 1.8 リットル の溶液を飲み干すことになりました。飲みにくい味がしましたが、飲み終わると直ぐに昨夜の下剤の効果が現れました。朝飲み始めてから 一時間半後から下痢が始まり、二時間後には水に近い色をした液体が排出されるようになり、大腸内を 水で洗浄する作業 は午前11時までに終了しました。 医院に行くと検査着に着替えましたが、パンツ の穴の空いた方を肛門側にして履くのは他院での検査と同じでした。腸の蠕動(ぜんどう)を抑える注射を肩に打たれましたが、ベッドに横になり内視鏡の検査に備えて脈拍の測定器を指先に付け、生理食塩水の点滴を受けました。
内視鏡挿入の前に看護師から モニター 画面で腸の内部を見たいかどうか尋ねられましたが、過去に何度も見ているので見たくないと答えました。すると点滴の管の途中から鎮静薬を注入したので、たちまち意識を失いましたが、気が付くと検査は既に終了していました。所要時間にして十五分程度だったと思います。
右上の写真で内視鏡の途中から黄色の取っ手があるワイヤーが入っている所は、大腸から組織を採取する鉗子(かんし)や、ポリープ の茎にワイヤーを掛けて高周波電流で焼き切る スネアー などの器具の挿入口です。 検査終了直後に眠りから覚めたのは、その為の注射を打たれたからでしたが、後で考えると私が腸の内部を見たいといえば鎮静薬を少な目に入れて、 うとうとした状態 で検査をしたであろうと想像しました。前述した如く内視鏡挿入技術の未熟さを隠すために鎮静薬を使用すると、大腸穿孔( せんこう )などの危険性が増えるという意見があることは承知していますし、鎮静薬を使用すると意識回復後も大事をとってしばらく( 十五分〜三十分 ) ベッド で休ませる必要があるなど、設備や時間的に医院側に負担がかかることもあり、鎮静薬を使用しない医療施設が多いのが現状です。私の希望である 痛くない検査 を叶えてくれたこの医院で、これからも検査を受けるつもりです。
[7:胃の検査]この医院での検査方法が気に入ったので 四日後には胃の内視鏡検査も受けることにしましたが、これは 十年ぶりでした。大腸の検査に比べて前処置をする必要がなく、単に前日の午後九時までに夕食を済ませ、当日は何も飲まず、食べずに検査に行くという簡単なものでした。
ところで胃 カメラ を何度も飲んだ経験がありますが、医者によっては何も麻酔処置を施さない所や、ノド に麻酔薬の スプレイ をする所もありました。最初の頃は胃 カメラ を見ただけで条件反射から吐き気を催し、ウエーとなったので医者から未だ入れない内に ウエー かいな!と笑われました。この医院でも検査前に胃内部の泡を消す薬を飲みましたが、続く ノド の麻酔の方法は、これまでとは違うやり方でした。麻酔薬の液体を五分間口に含み、なるべく ノド の近くに留めるというもので、時間になると吐き出して又新しい麻酔薬を口に含み、五分間経つと吐き出し方法で合計三回繰り返しました。 内視鏡を口から挿入する前に今回も点滴をされましたが、点滴の途中から少量の鎭静薬を入れられ意識がもうろうとする中で、口に マウスピース をはめられ内視鏡が ノド に入れられました。軽い吐き気を一度経験しただけで内視鏡が ノド に入りましたが、胃に ポリープがあったので、三個切除したのをかすかに覚えていました。終了後はやはり 三十分ほど ベッド に寝て、鎮静薬の影響が無くなるのを待ちました。 ところで近くに住む息子の話によれば、最近彼が受けたのは鼻の孔を麻酔して、そこから直径 5.9 ミリ の細い ファイバー・スコープ ( 口から入れるものは直径 9.0 ミリ )を胃に入れる経鼻 内視鏡検査でした。医者とは会話しながら検査を受け、当然のことながら吐き気など感じなかったとのことでしたが、医療機器の進歩には驚かされます。
[8:検査結果]私が検査を受けた医院では、撮影した大腸内部の画像を医者が パソコン の モニター画面に表示して説明しましたが、もの好きな私は デジカメ を持参していたので、画面を写真に撮らせてもらいました。医者から プリント をしましょうかといわれましたが、画像全部の プリント を頼むわけにもいかないので辞退しました。大腸の写真のうち 18 番を見ると黄色い円の中に ポリープ が見えますが、ここはガンが発生し易い直腸であり、検査の結果 ポリープ を一個発見したので切除したとのことでした。右側は大腸内部の集合写真。
胃の検査では ポリープ が 三個あったので切除したそうですが、一般に胃のポリープの約 八十 パーセントは、ガン化の恐れのない過形成性 ポリープ ( 非腫瘍性の上皮性病変 ) ですが、これに対して大腸 ポリープの約 八十 パーセントは、ガン化の可能性を持つ腺種性 ポリープ だといわれています。ところで私の胃壁には加齢による萎縮 ( いしゅく ) が見られたので、ガン ができ易く一年後に検査に来るようにとのことでした。 なお腹部の超音波検査 ( エコー ) も受けたところ胆嚢( たんのう )に結石があり、画面に白く映っていましたが、大きさは 6 ミリ 程度とのことでした。胆石は一生動かない場合もあり、動いて胆石の発作が起きた場合には、それから判断して内視鏡による胆嚢の摘出手術を受けることにしました。写真は胃壁の様子。 ところで今から二十五年前に急性膵炎 ( すいえん )を患いましたが、その時の痛みは強烈で、あたかも鋭い キリで腹を突き刺されるような鋭い痛みが持続し、身体を エビのように曲げたままで動けなくなりました。その時は一ヶ月間入院しましたが、胆石の発作による痛みも 七転八倒するらしいので、時限爆弾を抱えたようなものです。死ぬまで発作が起きない サイレント・ストーン( Silent Stone 、沈黙の石 )のままでいることを願っております。
[9:検査費用]今回の大腸と胃の内視鏡検査、腹部の エコー 検査に要した費用の合計は、特例退職者制度 ( 健保組合 ) の 三割負担で 28,470 円でしたが、健康保険組合に感謝すると共に、健康に対する安心料としては高くないと感じた次第です。ちなみに全国一律の健康保険による費用としては、以下の表のとおりですが、私はポリープを合計四個切除し、エコー検査も受けましたが、この表よりも安い金額になりました。今後は毎年検査に来院しそうな患者なので、顧客割引(?)でもしてくれたのでしょうか−−−−まさか。
[10:内視鏡の消毒について]私が住む地方自治体では老人健康診断の制度がありますが、私はそこへ一度も行ったことはありません。胃 カメラ の検査を受けに行った人の話によれば、前の人に使用した泡だらけの内視鏡を、ティシュ・ペーパーで拭いただけで次の人に使用していたそうです。それを見て ショック を受け、受診せずに帰ってきたとのことでした。 注射器については以前から使い捨て注射器の使用が日本では常識ですが、言うまでもなく注射針を介して エイズ B型、C型肝炎 などの感染症の感染を防ぐためでした。他人に使用した内視鏡を消毒もせずに使用すれば、病原菌に汚染された内視鏡を通じて、 ノド 、食道、胃などの粘膜に検査の際に生じた傷口から、細菌感染する危険があるのは当然のことです。しかしこの医療施設では安かろう悪かろうの検査だから、不衛生で危険なのは当たり前とする、医師や看護師の職業倫理、良心の欠落には眼を覆いたくなります。
日本の学会には内視鏡の洗浄、消毒に関する ガイドライン があり、内視鏡を介しての感染症 ( エイズ・肝炎・ヘリコバクター・ピロリ 菌など )防止の為に検査に使用する内視鏡の洗浄・消毒が規定されていますし、特に血液や組織が付着した処置器具は、使い捨てのものを使用したり、再利用する場合には高温高圧の蒸気で滅菌 ( 菌がなくなる ) するなど、十分な感染対策が求められています。 洗浄消毒のための専用機器が医療 メーカーから販売されていますが、経済的利益優先の考えから、患者の健康に対する感染の危険には関心を払わない病院経営者、医療従事者が未だに多いので、受診の際にはくれぐれも注意する必要があります。写真は内視鏡の洗浄消毒機。
[11:大腸ガンで死なない為のヒント]前述した如くガンで死亡する人の数は毎年 三十万人ですが、そのうちの約 三十 パーセントが大腸 ガン によるものです。大腸 ガン で死なない為には、早期診察、早期切除が必要です。都内のある病院における患者に対する内視鏡検査を受けた動機に関する、アンケートの結果は下表のとおり。( 約二百人が対象で、平均年齢は 六十四才、平成 18年実施 )
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