2003.05.21

SARSと人権の問題

大阪に台湾の医師がやってきて、SARS確定症例だったことがわかって、SARSが身近になってきて
緊張しました。もうすぐ潜伏期と言われている最大の10日が過ぎていこうとしていて、二次感染は
出ないようで、まずよかったです。

しかし、この間の空港の検疫の甘さ、更に情報がもたらされたにもかかわらず、緊張感なくいい加減
に扱われたことが表面化して、やっぱりねって感じました。
HIVのときも、何年も前に海外では血液製剤の危険性を言われていたのに放置し続けた日本。
狂牛病のときも半年以上前に指摘された危険性を否定し続けた日本。何の根拠もなくね。

それより以前、HIVや狂牛病の危険は無視していたのに、ハンセン病に関しいては以前にも触れま
したが(ここ)1940年代には薬物治療で治る病気であることが世界的に知られ、1956年には、
「ハンセン氏病患者の保護および社会復帰にかんする国際会議」で、日本のハンセン病政策が批判
を浴びたにもかかわらず、「らい予防法」に固執し続けました。

日本の厚生省(現厚生労働省)の行政が国民の利益になるようには動いてこなかったことは、もう経
験で判っていることですが、今もまた頼りにならないようです。
台湾の医師が、スーパースプレダーでなかってよかったです。

SARSに対しての対処法、どのように防御しようとしているのかをちょっと各国についてみました。
SARSの伝播地域とWHOで指定され、それから抜け出した国、ヴェトナム、カナダの対処法は、日本
のように甘くはなかったようです。
共通しているのは、感染者、感染を疑われる人、感染者に接触した無症状者について、厳格に監視下
において、感染が拡がらないようにしたことです。 そのためには、無症状者についても行動の自由を
一定期間拘束することになりますが、「感染症にたいする法律」を改定してもそのようにしています。
また、隔離勧告に従わない人に対しても厳しい罰則までももうけたようです。
社会防衛のために、一時的に一人一人にとっては人権の部分的制約が課せられている状態です。

ここで、今日の朝日新聞の記事を読んでいて少し気になったことがあります。
感染したかもしれないと不安に思って受診する「不安例」という言葉を使って、こういう患者さんは
専門の病院じゃなく、一般開業医で診てもらってくれということが言われているようです。
それに、感染を疑われる患者を開業医が診ないことが、なにか差別のような書き方がされています。

そうでしょうか? HIVやウィルス性肝炎はどのようにすれば感染するか、どのように注意すれば感染
しないかがわかっていれば、その注意に沿って処置すれば問題はありません。
ハンセン病も治療法もわかっているし、日常の生活の中で心配はありません。
でも、結核はいまでも怖いですよ。 咳と一緒に結核菌を排出している患者さんは周りにうつします。
しかし、結核は治療法があります。(全耐性菌という手ごわいのもあるけど)

SARSは、感染力が強い、治療が今のところ無い、致死率が高いということからやっぱり怖い。
感染を予防する以外に制圧する方法が今のところない状態です。
ということになると、可能性のある人は動き回ってはいけないということです。 一般の患者さんがたく
さんいるような開業医の待合室にやってきて、そこで感染を拡げることになると困るのです。
その上、今一般開業医には、N95のマスクは手に入らない状態です。 外科用のマスクが手に入るか
どうかと言う状態です。しかもこれは使い捨てなければ意味がない。マスクだけじゃ駄目で、テレビでみる
ように帽子もゴーグルも予防着も靴カバーもみんな使い捨てでいるのです。
その供給はない状態です。そういうところで、SARSかもしれない人を診なさいという行政の姿勢は
無責任です。 ちゃんとこういう条件をつくれる病院が専門的に診なければあっちこっちにばらまくことに
なるだけです。

ヴェトナムでも、トロントでもひとつの病院に集中して治療態勢に入って他に拡がらないように
封じ込めたのです。

行政とマスコミがきちっとした姿勢で、拡げないために、それぞれが自覚的に何をするべきか、
何をしてはいけないか(自分がばら撒く人にならないようにすること)をちゃんとアピールするべきと思う。

隔離や監視が、この場合必要な処置であることを周知するようにするべきです。
そのことが差別なのではなく、ちゃんとしないことで感染の拡大が拡がったときに、行政に対する信頼が
なくなり、パニックと疑心暗鬼からの差別が生まれるのです。

かっての初期のHIVや「らい」に対する誤った対応から今回のSARSに対する対応も逆の意味で誤って
はいけないと思います。

子どもたちに「社会防衛上必要だ」といろんな予防注射を義務的に受けさせてきた厚生省の姿勢から
みるとSARSに対しての対応は変なバランスだと思います。
疑い例はちゃんと管理下にあります、感染危険場所はここです、とはっきり早く情報公開することが、かえ
って風評被害を防ぎ、疑心暗鬼をなくすことになると考えます。
ちゃんとした、知識と情報の提供を行って、不安だけあおるような報道はしないようにマスコミも考えて
ほしい。


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